最終更新日 2005年09月19日

「絵ものがたり散歩道」E

「ゴンちゃんモンちゃんの冒険」

絵と文  茶原 真佐子

8月25日から9月25日

 

 
 

今年の夏のはじめ、

モンゴリナラのお母さんの枝先に、

ふたごの実の「ゴンちゃん」と「モンちゃん」が

生まれました。ふたりは、やさしいお母さんに

守られてすくすくと育っていました。

ふたりの楽しみは、なかよしのトビさんから

森の話を聞くこと。

 
 

なかでも、尾根向こうにすむ自分たちのおじいさん「ゴリじい」の話が大すきでした。

秋になりまるまると実ったふたりは、元気よく森へとびだして行きました。

 

「ゴリじいに会いに行こう !」そういうと、

ゴンちゃんとモンちゃんは心配するお母さんを

あとにして、尾根に向かって歩きだしました。

はじめて出会う森の世界はふしぎがいっぱい。

枝の上にいたときはとても小さく見えた

木や草たちが、見上げるほど大きく、

知らない虫たちもたくさんいました。

 

 
 

 
 

少し歩くとシダにかこまれた沢にでました。

ドングリたちがころがり、

小さな木もあちこちにいますが、

なぜかみんな弱々しく元気がありません。

「なぜだろう ? 」

 
 

すると、沢の上のモンゴリナラたちが教えてくれました。「そこは日があたらないし

じめじめしているからさ。」 「落ち葉や枝がじゃまで根もはれないしね。」

ゴンちゃんとモンちゃんは暗い気持ちになってしまいました。

 

上からようすを見ていたトビさんが、

元気をなくしたゴンちゃんとモンちゃんを

はげましにきました。「春の森はすごいんだぜ。

ピカピカの葉っぱと、色とりどりの花。

鳥や虫たちはごちそうざんまい。

森中キラキラかがやいて、

毎日パーティーのように大にぎわいさ ! 」

 

 
 
 
 

少し元気がでたふたりはトビさんと別れ、また歩きだしました。

 

 
 
 

ふと気づくと、空があかね色になっていました。

ゴンちゃんとモンちゃんは

お母さんの木にいたころ、

朝日で金色にかがやく森や、真っ青な空、

白い雲、そして赤やオレンジ、むらさきにそまる

夕ぐれの森を見るのが大すきでした。

 
 

そのときと変わらない夕やけを見ながら、この大すきな森で、お母さんのように

大きな木になりたいと、ふたりは心に思いました。

 
 

ゴンちゃんとモンちゃんは、たくさんのマツボックリ

が落ちている場所にでました。

その中には、ふちがギザギザになった実も

ありました。

「なにかなぁ ? 」

 

 
 
 

「それもマツボックリじゃよ。」 その声のぬしは、長老マツのマツじいさんでした。

「ムササビの食べかすじゃ。おまえさんたちもおいしそうじゃから、

食べられないよう気をつけるんじゃぞ。」

 

「キィーッ ! 」
 
 

「ぼくらを食べるのは、

虫たちばかりじゃないんだ・・・」  そして

あたりがすっかり暗くなっていることに気づき、

ゴンちゃんとモンちゃんは急にゾッとしました。

 

「うわーっ ! 食べないで、おねがい !! 」 ふたりをおそったのはアカネズミでした。

 
 

「おねがいです、食べないで。おじいさんの

ゴリじいに一目だけでも会いたいんだ。」

ゴンちゃんとモンちゃんはひっしにたのみました。

「いいだろう。ゴリじいはよく知っているから、

おいらが連れて行ってやる。今はうまい実が

ほかにもたくさんあるからな。

おまえたちはあとにしよう」

 

ふたりはおじいさんに会うために、

おそるおそるアカネズミについて行きました。

 

 
「助けてくれたの ? 」
 

空が明るくなり、夜があけてくると、

遠くから鳥たちのさわぎ声がしてきました。

そこでは、コナラやソヨゴ、ヒサカキなどの実が

鳥たちに食べられていたのでした。

ゴンちゃんとモンちゃんがこわくてふるえていると、

「おいらにつかまれ ! 」

アカネズミはそういって、ふたりを背中に

のせると猛スピードでそこをかけぬけました。

 
 

「ちがうわい !

おまえらをとられたくなかっただけだ ! 」

アカネズミはそういいましたが、

ゴンちゃんとモンちゃんは少し安心しました。

そして眠そうなアカネズミとつかれたふたりは、

コナラの根もとにかくれて休むことにしました。

 

 
 
 

サワサワサワ・・・風に木の葉がゆれる音   チチチ・・・鳥たちの声

ここはとても気持ちがよくて、しらずしらずねむっていました。

 

 
「さぁ、ゴリじいはすぐそこだ。」

アカネズミがいいました。

 

また歩きだしたゴンちゃんとモンちゃんは、

まだら模様のリョウブのリョウさんと出会いました。

リョウさんのからだはニョキニョキと

たくさんの幹にわかれていました。

「切り株からたくさんの芽がでているのを

見たことはあるかい ? 人間が切っていったんだが

まけずに芽をだしているのさ。

私のこのからだは、そのたたかいのあかしさ ! 」

 
 

「あれがゴリじいだ」

 

そこにはひときわ大きく枝をひろげた

モンゴリナラがいました。

ゴンちゃんとモンちゃんは

あこがれのゴリじいにかけよりました。

 

 
 
 

ふたりは、トビさんからいつもゴリじいの話をきいていたことや、

ここにくるまでの冒険を、一気にゴリじいに話したのでした。

 

 
 
 

「よく来たな。だがこれからはもっと大変じゃぞ。

とにかくあきらめず芽をだし、

少しでも日をあびなさい。

大きくなれたらたくさん葉や実をつけ、

生きものたちを喜ばせてやりなさい。

 

 
 

 それから人間を見たことはあるか ? やつらも森には必要なのじゃ。人間は木を切る。

だが、そうすることで森に日がさし、わしらも大きく枝をのばせるのじゃ。このあいだも台風で

折れた枝を切ってくれて、助かったよ。」 ゴリじいはたくさんのことを話してくれました。

 
 

ゴリじいに会えたゴンちゃんとモンちゃんは、

とてもまんぞくしました。

「ありがとうネズミさん。さぁ、食べてください。」

アカネズミは少し考え、何かを思いついたように

いいました。「今は、おなかがいっぱいだ。

おまえらは冬の食料として落ち葉の下へ

かくしておくことにしよう。」

 

 
 
 

そういうとアカネズミは、ふたりを日当たりのいい場所へ、

べつべつにかくし、森のどこかへさって行きました。

 

 
 
 
 

アカネズミはそれっきり、ふたりをほり出すことは

ありませんでした。来年の春にふたりはきっと、

落ち葉から芽を出し、からだいっぱいに

日の光をあびているでしょう。

 

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